感染予防と重症化防止にむけた課題
西アフリカ、サハラ砂漠以南のアフリカ(「サブサハラ・アフリカ」)ではB型肝炎ウイルスが多くの人を苦しめています。部位別がん死亡数では、肝がんは男性の第1位、女性の第3位。見つかったときにはほとんどが手遅れで、30代、40代という若い人たちが犠牲になっています。
* Maud Lemoine, Mark R.Thursz “Battlefield against hepatitis B infection and HCC in Africa” (Journal of Hepatology 2017 vol.66)
使えない薬は、患者にとっては無いも同然。
どんなに素晴らしい治療薬でも、使えなければ患者にとって薬は無いも同然です。C型肝炎ではウイルスを身体から排除できる治療薬が開発され、ジェネリックによって普及も始まっています。
B型肝炎でも、ワクチン、治療薬、検査技術など……「根治薬」こそありませんが、先進国では闘う武器はすでにあります。しかし、保健制度の脆弱なアフリカでこれを使うには多くの困難があり、国際社会の協力が求められています。
出産の半数は自宅、ワクチンを保管する冷蔵庫も貴重……。
→出生直後のワクチン接種を普及すること。
B型肝炎にはワクチンがあり、予防接種を受けることで感染を防げます。例えば、日本では1986年から母子感染を防止する事業が実施されてきました。また、世界中で、すべての赤ちゃんに対してワクチンを接種する「ユニバーサルワクチン」の取り組みが広がっています(日本も2016年から実施)。
アフリカでも子どもへのワクチン接種は普及が始まっていますが、母子感染を防ぐためにも重要だと言われる、出生直後の赤ちゃんへのワクチン接種(バースドーズ)については、ほとんど普及していません。
バースドーズ(出生直後のワクチン接種)が普及しない理由 ・GAVIワクチンアライアンスの対象ワクチンにバースドーズが含まれていなかったこと(現在、見直しを行っているところ)。 ・ワクチンを保管するための冷蔵庫が貴重。 ・約半数が自宅で出産すること。 ・行政もあまり本気ではない。「本当に効果ある?」 ・風習や社会制度の問題など……。
感染が分かっても、費用が高くて治療が受けられない。
→必要な治療を受けられるようにすること。
B型肝炎の治療法は急速に進歩しており、今では「核酸アナログ製剤」の服用によって、肝がんへの進行を抑えられる人が増えてきました。また日本では、治療費の助成制度によって、患者の自己負担は月1万円〜2万円に抑えられています。
しかし、保健制度の脆弱なアフリカでは、検査などの費用が高額になります(PCR法のHBV-DNA量検査は数千円〜2万円)。献血や出産をきっかけに、偶然、肝炎ウイルスへの感染を知ったとしても、自覚症状がないこともあり、一般の人は放置するしかありません。重症化を防ぐためにも改善が急がれます。
治療薬は安価になってきたが…。日本の検査技術への期待も。 ・国際援助、ジェネリック薬のおかげもあって、治療薬自体は安価になりつつある。 ・治療適応の判断において、PCR法のウイルス量測定に代わるものがないか。日本の企業が開発した安価で簡便な検査技術(LAMP法や「B型肝炎コア関連抗原(HBcrAg)」など)の活用も研究されている。
病気ではなくて呪い?毒? 「不治の病」への差別や偏見も。
→ウイルス肝炎への正しい理解を広げること。
サハラ砂漠以南のアフリカでも、肝がん、肝炎の症状は広く知られています。たとえば、肝臓が悪くなると黄疸の症状が出ることから「黄色い熱病」とよぶ地域もあります。しかし、肝炎という病気についてはほとんど理解されておらず、治療ではなく高額な呪術や薬草などに頼る人が多いのも現状です。恐怖心などによる差別や偏見も根強くあります。
アフリカでも、粘り強い努力によってHIVについては正しい知識の普及が進んできたと言われます。肝炎についても正しい知識と理解を普及することが急がれています。
このページの情報は、実行委員会メンバーがパスツール研究所の島川祐輔先生のご講演を聞き、関連文献を読んで学んだことをもとにまとめました。文責は私たち実行委員会にあります。