アジアとならび、B型肝炎の多いアフリカ地域。そのアフリカでB型肝炎など、ウイルス性肝炎対策にとりくむ島川祐輔先生に、ご研究の成果について寄稿していただきました(見出しは事務局作成)。
私たちの取り組んできた研究成果がいくつか論文となりましたので、2回に分けてご紹介したいと思います。第1回目はLAMP(ランプ)法のお話です。
厳しい現実 〜 働き盛りで発症し、命を落とす人が多い
アフリカでは国によっては1割を超える成人がB型肝炎の慢性キャリアですが、多くの人々は自分が感染していることを知らぬまま、やがて肝硬変や肝臓がんを発症します。肝臓がんの切除や肝臓の移植といった高度な外科治療はアフリカでは乏しく、また受診の遅れから見つかった時には手遅れという場合がほとんどです。30-50才代の働き盛りで発症して命を落とすことが多いため、残された家族が生活に困窮するという点も大きな問題です。
日本を含め先進国では、肝硬変や肝臓がんを発症する前に、慢性キャリアの人をスクリーニング検査で見つけだし、将来、肝硬変や肝臓がんを発症する危険性が高い患者さんには抗ウイルス薬を内服してもらうことで、病気の発症を予防するという一連の医療が広く根付いています。
アフリカでも、慢性キャリアの診断に必要なHBs抗原検査については、安価で簡易な迅速検査が広く普及してきましたし、ジェネリック薬(後発薬)が登場したことで抗ウイルス薬の治療費もひと月当たり¥500程度まで抑えられるようになりました。
治療の必要性を判定するため、ウイルス量の検査が必要
しかし、そのような「追い風」の中でも、実際に治療の恩恵を受けることのできる患者さんはアフリカにおいて非常に限られています。なぜなら、慢性キャリアの診断の後に、抗ウイルス薬の治療が必要かどうかを判定するためのウイルス量検査(B型肝炎のDNAの定量検査)を受けることができないからです。
現在、B型肝炎のウイルス量測定はPCR法を用いるのが一般的ですが、このPCR検査はアフリカにおいて非常に高価で(¥4,000~¥20,000)、また実施できる医療機関も限られており、都市に住む一部の富裕層以外は、なかなか受けることができません。このような障壁を乗り越え、治療を必要とするアフリカの多くの慢性キャリアの方々に治療がいきわたるようにするためには、PCR検査に代わる、安価で簡易な検査が必要です。
私たちはこれまでLAMP(ランプ)法と、コア関連抗原(HBcr抗原)という2つの検査に着目し、研究を行ってきました。どちらも日本で生まれた「Made in Japan」の技術です。
「Made in Japan」の検査技術の優れた特徴
LAMP法というのは、PCR検査と同様、ウイルスの核酸を増幅させて感染の有無を調べる検査ですが、PCR検査と異なり、同じ温度(B型肝炎の場合65度)で効率よく増幅することができるので、「湯沸かし器」のような簡単な機器さえあれば検査することができます。またウイルスの核酸を血液中から抜き出す方法(抽出といいます)もPCR検査より簡易に行える場合が多く、特殊な検査室のない低所得国の医療機関でも実施しやすい検査とされています。
私たちは、フランスの国立輸血センター、セネガルのダカール・パスツール研究所、日本の栄研化学と協同で、B型肝炎のウイルス量測定法としてのLAMP法を確立させ、アフリカ・セネガルの実際の現場でその診断精度を検証しました。血液検体を加熱して遠心分離したのち、試薬を加えて40分間65度で加熱するだけ、というPCRに比べればずっと簡単で安価(¥800程度)な方法を用いて、B型肝炎のDNA量の高い患者さんと低い患者さんを判別できるか調べました。
最終的に、高い感度(PCR検査でウイルス量が高いと診断された患者のうち、98.7%の患者でLAMP法でも同様の診断に至りました)、高い特異度(PCR検査でウイルス量が低いと診断された患者のうち、91.5%の患者でLAMP法でも同様の診断に至りました)を認めました(詳しくは論文のリンクを参照ください)。
実用化にむけて、多面的な視点からの評価を現場で
ただ、アフリカでこのような検査が実際に使われていくには、診断精度が十分であることを示すだけでは不十分です。今後、このような検査が実際の医療の現場で実施できるのかどうか、現地の住民・患者さんや医療従事者がこのような検査を受け入れるかどうか、費用対効果についてはどうか、など多面的な視点から更なる評価をアフリカの現場で行う必要があります。
島川祐輔
医師・疫学専門家(パリ・パスツール研究所、熊本大学客員教授)